『凶悪』『孤狼の血』などで知られる白石和彌監督が、西島秀俊中村倫也タッグを組んだ『仮面ライダー BLACK SUN』。人間と怪人がいがみ合い、差別や偏見が横行する社会。巨大な力を持つ創世王の次期候補である「ブラックサン」=南光太郎西島秀俊)と「シャドームーン」=秋月信彦(中村倫也)が再会を果たしたことで、混沌の時代が大きく動き出していく。今日の社会の歪みを映し出すテーマや、容赦のないハードな描写が詰まった力作を作り上げた白石和彌監督×西島秀俊×中村倫也の対談をお届けする。

【写真】自身初となる“仮面ライダーを演じきった”西島秀俊&中村倫也 撮り下ろしショット

■先人たちが特撮に込めた“想い”を繋いでいく

――本作のレーティングは最初から「18+」で制作するコンセプトだったのでしょうか。

白石:いえ、個人的にはPG12くらいのつもりでした。西島さんとも最初に話したのですが、「大人の仮面ライダー作品を目指しているけれど、子ども背伸びしたら大丈夫だよね」というくらいのものをやろうという話でスタートしたんです。ですが、何故18+になったかというのは、完全に僕の不徳の致すところです…。

西島&中村:(笑)

白石:いまだに「なぜこうなったのか」と思っています(苦笑)。

西島:いま白石さんがおっしゃった通り、本当に子どもたちにも見せるつもりで作っていました。可能ならばPrime Videoの方に子どもたちが観られるバージョンを作ってほしい…。「ギャラは要らないですから!」という気持ちです。

――特撮のある種の歴史として、差別や偏見、公害等の社会問題が盛り込まれることは多々あると思います。『仮面ライダー』や『ウルトラマン』等もそうですが、子どもの頃は純粋に楽しめて、大人になってから観ると「見え方が変わる」面白さがありますよね。

白石:僕もそう思います。『ゴジラ』も水爆実験の話から始まっていますし、『ウルトラマン』もジャミラが登場する『故郷は地球』は完全に革命家の話です。人種差別や環境破壊など、時代時代でメッセージを送るという特撮作品を観て育ってきているので、託せるものがあるなら託すべきだという想いで本作を作っていました。仮面ライダーを描く以前に、まず何をテーマにしていくのかと考えましたね。

西島:特撮の黎明期のころの制作者さんたちは、当時の“いまの問題”や自分が感じた戦争体験を盛り込んで作品を作っていた。そうした姿勢が脈々と受け継がれて、今の仮面ライダーも「正義とは何なんだ」という部分を問うていると感じます。最近の作品ですと『シン・ゴジラ』もそういったテーマを落とし込んで反映していますよね。エンターテインメントとして成立させつつ、観る人が感じ取れる社会的なテーマを入れ込んでいるところに特撮のスゴさを感じます。

中村:僕は詳しいことは分かりませんが、小さい頃に『ウルトラセブン』を観ていて、スペル星人が登場する話で「放射能」という言葉を聞いたことや、メトロン星人とのちゃぶ台のシーンが強烈に記憶に残っています。こうして作品を観た子どもが、大人になっても覚えているように制作していてくれていたんだなというのは実体験としてあります。しかも、大人になってからネットなどで調べたら当時は感じ取れなかった色々なもの(メタファーやテーマ)を知ることもできました。

ハードな世界観を崩さないように心がけたこと

――これだけ世界観が独特ですと、脚本を読んだだけでは芝居のテイストイメージするのがなかなか難しそうに感じます。そのあたりはどのように調整していったのでしょうか。

中村:演じる上で考えていたのは、ヒーローものである以前に、世界観のことです。怪人という新たな人種がいて差別が社会問題になっている世界なので、少しでも作品にそぐわないことをしてしまうと浮いてしまう。そこがすごく怖かったです。なので、白石さんの横に座っていつになくモニターチェックしました。

西島:僕もモニターチェックしました。例えば商店街のシーンだとしたら、撮影で使うのは一角なのですけれど、美術の今村力さんが奥まで全部作られていて作品の世界がはっきりと出来上がっていたんです。そのうえで実際に怪人と人間が共存している世界というのは、どのくらいのリアリティなのか僕も感じ取ろうとしました。

白石:あとはモブですね。それによって、「どういう世界か」が見えてくる。ただ難しいのは、怪人が全部変身後だったらよいのですがそうではないということ。変身前の姿ですと、ぱっと見は普通の人間のエキストラさんたちと変わらないのでそこは難しかったです。

西島:顔が半分だけ怪人の方もいましたよね(笑)

白石:いましたね(笑)。その辺りをもう少し作りこめていればまた違ったのでしょうけど、ある程度想像しながらやっていく部分が必要でした。考えなきゃいけないことが多岐にわたりすぎていて、僕の中ではいつの間にか始まって動き出しちゃった感があります。

■白石監督の挑戦と『仮面ライダーBLACK』へのリスペクト

――第1話だけでも、セット・ロケ含めて登場する場所が非常に多かったです。

中村:しかも、人も多いので最初の1ヵ月くらいは、今まで見たことのない白石さんがいましたよ。

――白石組を多く経験されている中村さんの「見たことない白石さん」は、気になります。

中村:普段の白石さんは、現場が押しているときでもモニター前にどんと座って、助監督さんが捌くのを待っているんです。ですが、いよいよまずいぞとなったら出てきて。そういうどっしり感が最初の1ヵ月はなかったです(笑)

白石:(爆笑)

中村:監督にとっても初めての特撮ですし、そうなるものだとは思うんです。でも、白石さんがそうなれるコンテンツに一緒に参加できることがうれしかったです。

白石:観察されてるなぁ。モニターを観に来たんじゃなくて、俺を見に来たんじゃないか(笑)

西島:僕は白石組が初めてなのでその辺りは特に感じませんでしたが、いつもの現場とは違うんだろうなとは思いました。白石組は早撮りだと聞いていたので。特撮はどうしても普通の作品より時間がかかるところが多いんです。撮影・照明・効果にCGチームアクション部がいて全部のパートが上手くいかないとOKが出ませんから。

――白石監督的には、何か一つが大変だったというより全体的に“自身の範疇を超えた”感じだったのでしょうか。

白石:そうですね。スタッフの数も80人くらいいて、いつもと勝手が違う所が多くて苦労しました。でも、今までにない挑戦をさせてもらえたことはありがたいですし、「最近はできる範疇の中でやっていたんだな」という気づきもありました。おかげで、まだ伸びしろがあるぞ!って思えました(笑)

――劇中で信彦がサングラスをかけているのは、漫画『仮面ライダーBLACK』のリスペクトでしょうか。

白石:そうです。あとは、ドラマ仮面ライダーBLACK』からのリスペクトで革手袋もつけています。でも、実は本作では革手袋をどうしようか悩んでいたんです。そうしましたら、クランクインの2日くらい前に西島さんから「やっぱり革手袋をしたいです」とお電話を頂いて、結果的に大正解でしたね。光太郎が革手袋をすることで、対になる信彦の革手袋も生まれましたから。

西島:オリジナル倉田てつをさんの変身のような、こぶしを握り締め、「ギチギチ」と革手袋が鳴るさまをどうしてもやりたかったんです。あれは革手袋がないとできませんから。

中村:そうだったんだ…。僕は特に考えず「はい、分かりました」って付けてた(笑)

白石:そういえばクランクアップするとき倫也くんに「記念に手袋持って行く?」と聞いたら「いや、大丈夫です」と言われました(笑)

――余談なのですが、劇中に出てくる「ヘブン」がどんな味だったのか気になります。

白石:ベースかき氷ブルーハワイ味です。最初、不味そうに食べるのもいいかなと思って微妙に不味いバージョンの物もオーダーしていたんです。ところが、それを試食したら役者さんが芝居できなくなるレベルの不味さで…。味は何度か試行錯誤を繰り返しました。

中村:美味しいんですけれど、口周りがすごくべたべたします。第1話は手をふさがれて口だけで食べていたので、ひげについたらもう地獄です(笑)

白石・西島:(笑)

(取材・文:SYO 写真:小川遼)

 『仮面ライダーBLACK SUN』は、Amazon Prime Videoにて独占配信中(全10話)。

(左から)西島秀俊、中村倫也、白石和彌監督  クランクイン! 写真:小川遼


(出典 news.nicovideo.jp)

見ごたえある作品です

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